相対性理論では「空間」と「時間×光速」は等価なので、初期宇宙の空間が現在よりも収縮していたら、光が遅くても不思議ではありません。
光速度は不変と考えられている
光が遅かったと言うと、「そんなことはない、光速度は不変のはずだ。」という声が聞こえてきそうです。確かに、1887年の マイケルソン・モーリーの実験では、地球の運動方向に対して、光の進行方向が平行でも、垂直でも、光速度は同じでした。また、アインシュタインは、どのような観測者にとっても光速度は不変であるという原理に基づいて相対性理論を構築しました。さらに、数々の実験結果や観測結果は、光速度が不変であることを支持しています。ただし、光速度の実験や観測は、地球上や太陽系内の事例がほとんどです。最も遠い事例でも、154光年先の恒星の観測事例であり、遠方宇宙や初期宇宙の観測事例はありません。
初期宇宙では、物理法則が同じとは限らない
標準的な宇宙理論では、この宇宙のどこであっても物理法則は同じである、という前提に立っています。また、現在の物理法則は過去においても通用すると考えられています。しかしながら、初期宇宙では、標準的な宇宙理論で説明できない観測事実が発見されているため、もしかすると初期宇宙では物理法則が同じでなかったかもしれないし、あるいは物理法則は同じであったとしても、物理定数が異なっていたのではないか、という仮説が提唱されています。物理定数の一つである光速度については、宇宙マイクロ波背景放射のゆらぎがほとんどないことから「初期宇宙の光は、現在の5倍速かった」と主張する説もあります。この説とは正反対の主張になりますが、ここでは「初期宇宙の光は、現在よりも遅かった」という仮説を提唱します。
初期宇宙の空間は縮小していた
1927年に、ルメートルが、宇宙は膨張しているという説を提唱しました。1929年には、ハッブルが、遠方の銀河ほど速い後退速度で遠ざかっていることを発表しました。現在では、さまざまな観測事実から、宇宙が膨張していることが定説となっています。これは、過去に遡ると宇宙が収縮していたことを意味します。次の表は、宇宙の年齢と、そのときの宇宙の相対的な大きさを示しています。
(講談社ブルーバックス『宇宙の「果て」になにがあるのか』の「宇宙の歴史年表」を参考にした)
空間が縮んでいたら、光が遅くても不思議ではない
アインシュタインの相対性理論によれば、空間と時間は 4次元時空として把握するべきであり、「空間」と「時間×光速」は等価であるとされています。一方、初期宇宙では、現在よりも空間が縮小していた、と考えられています。例えば、空間の大きさが現在の 1/10 であったとすれば、「時間×光速」の大きさが 1/10 になっていたとしても不思議ではありません。むしろ、1/10 にならないほうがおかしいと言えます。仮に時間の流れが変わらないとすれば、「光速」が 1/10 になる、つまり、光の速度は現在よりもずっと遅かった、ということになります。